ひどい吹雪に襲われた二人のきこりが、森の中の小屋に避難したが、
現れた白装束の女に冷たい息を吹きかけられ、年取った茂作は凍死。
若い巳之吉は、秘密を守る約束で命を助けてもらった。
その後、結婚した巳之吉は妻のお雪に恐ろしい夜のことを話したところ、
妻は雪女に変わり、霧のように消えてしまった。
小泉八雲の「怪談」に出てくる「雪女」の話である。
ところが、雪女に事情を聴くと…。
「私は無実です。殺人なんかできるわけありません。
茂作さんが死んだのは高齢のためで、巳之吉さんは夢を見ていたのです」
◇
事件を検証してみよう。まず茂作だけが凍死したのは「高齢のため」という点について。
高齢者は寒冷にさらされた時に皮膚の血管が収縮しにくく、熱が逃げやすい。
加えて皮膚が寒さを感じにくいため保温を怠りがち。
その結果、体温が低くなる。
また体温は主に肝臓と筋肉で作られるが、
体温が下がると「震え(不随意な筋肉の収縮)」が始まり、安静時の約五倍の熱を出す。
しかし、高齢者は震えの開始が遅く程度も小さいため、体温が上昇しない。
◇
巳之吉が見た「白い煙のような息を吹きかけていた」という点は?
雪女は、凍死は「小屋のすきま風のせい」と主張。
冷たい風は、体のエネルギーをかなり奪う。零度の気温で、風が毎秒1メートル吹くと、
体表面積1平方メートル当たり1時間で約300キロカロリーもの熱を奪ってしまう。
屋外の作業で風があると、想像以上に体温が下がる。
労働省の通達では、10度以下の著しく寒冷な場所では、風が1秒当たり1メートルある場合、
3度温度を下げて計算する。
寒暖計で10度あっても、風がある場合は7度として、対策を取る必要があるのだ。
避難した小屋の温度は、当然10度以下だろうから事務所衛生基準規則に基づいて、
暖房が必要だった。
体の内部の体温が35度未満になると「低体温」と呼ばれる。
33度を下回ると、意識に混濁を生じ、27度で意識がなくなる。
雪女を見たという巳之吉の話は、低体温による幻覚の可能性が指摘された。
この事件から得られる教訓は
季節風の強い時の防寒はしっかり ― ということである。
◇
「これで私の無実がはっきりしたと思います。
えっ、巳之吉と結婚したのに、どうして白くきらめく霧となって消えてしまったかって?
雪女の秘密をばらすような、おしゃべりな男は嫌いなのよ」
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