雪  女  の  教  訓
雪女の教訓

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 ひどい吹雪に襲われた二人のきこりが、森の中の小屋に避難したが、 現れた白装束の女に冷たい息を吹きかけられ、年取った茂作は凍死。 若い巳之吉は、秘密を守る約束で命を助けてもらった。
 その後、結婚した巳之吉は妻のお雪に恐ろしい夜のことを話したところ、 妻は雪女に変わり、霧のように消えてしまった。

 小泉八雲の「怪談」に出てくる「雪女」の話である。

 ところが、雪女に事情を聴くと…。
 「私は無実です。殺人なんかできるわけありません。 茂作さんが死んだのは高齢のためで、巳之吉さんは夢を見ていたのです」

 事件を検証してみよう。まず茂作だけが凍死したのは「高齢のため」という点について。
 高齢者は寒冷にさらされた時に皮膚の血管が収縮しにくく、熱が逃げやすい。 加えて皮膚が寒さを感じにくいため保温を怠りがち。 その結果、体温が低くなる。
 また体温は主に肝臓と筋肉で作られるが、 体温が下がると「震え(不随意な筋肉の収縮)」が始まり、安静時の約五倍の熱を出す。 しかし、高齢者は震えの開始が遅く程度も小さいため、体温が上昇しない。

 巳之吉が見た「白い煙のような息を吹きかけていた」という点は?
 雪女は、凍死は「小屋のすきま風のせい」と主張。
 冷たい風は、体のエネルギーをかなり奪う。零度の気温で、風が毎秒1メートル吹くと、 体表面積1平方メートル当たり1時間で約300キロカロリーもの熱を奪ってしまう。
 屋外の作業で風があると、想像以上に体温が下がる。 労働省の通達では、10度以下の著しく寒冷な場所では、風が1秒当たり1メートルある場合、 3度温度を下げて計算する。 寒暖計で10度あっても、風がある場合は7度として、対策を取る必要があるのだ。
 避難した小屋の温度は、当然10度以下だろうから事務所衛生基準規則に基づいて、 暖房が必要だった。
 体の内部の体温が35度未満になると「低体温」と呼ばれる。 33度を下回ると、意識に混濁を生じ、27度で意識がなくなる。
 雪女を見たという巳之吉の話は、低体温による幻覚の可能性が指摘された。

 この事件から得られる教訓は

@高齢者は寒冷下で働く時には、保温性の高い服装で、休憩と暖を十分に取る。
A屋外労働では、気温だけではなく、風に注意。
季節風の強い時の防寒はしっかり ― ということである。

 「これで私の無実がはっきりしたと思います。 えっ、巳之吉と結婚したのに、どうして白くきらめく霧となって消えてしまったかって? 雪女の秘密をばらすような、おしゃべりな男は嫌いなのよ」

【文:中部日本新聞より再掲】

山田琢之(やまだ・たくじ) 山田琢之(やまだ・たくじ)
1955年、愛知県生まれ。愛知医大卒。名大予防医学教室入局、名古屋市役所産業医などを経て、愛知医大産業保健科学センター助教授。日本産業衛生学会指導医。労働衛生コンサルタント。

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